ギリシャ語の名詞にはみっつの「文法上の性」の区分があり、すべての名詞は「男性名詞・女性名詞・中性名詞」のいずれかに属します。
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自然性と文法性
実際の性別(自然性)と文法性は必ずしも一致しませんが、以下のような傾向が見られます。
人を表す名詞
男・男性を表す多くの名詞は「男性名詞👦」であり、女・女性を表す多くの名詞は「女性名詞👧」です。
男・男性、夫:男性名詞👦 | άντρας | アンドゥラス | andras | [英] man, male / husband |
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兄、弟、兄弟:男性名詞👦 | αδερφός | アデルフォス | aderfos | [英] brother |
ペトロス(男性の名前):男性名詞👦 | Πέτρος | ペトゥロス | Petros | [英] Peter |
女・女性、妻:女性名詞👧 | γυναίκα | イネーカ | gynaika | [英] woman / wife |
姉、妹、姉妹:女性名詞👧 | αδερφή | アデルフィ | aderfi | [英] sister |
マリア(女性の名前):女性名詞👧 | Μαρία | マリア | Maria | [英] Mary |
しかし、以下のように「中性名詞🤖」に属する名詞もあります。
子ども、子供:中性名詞🤖 | παιδί | ペディ | paidi | [英] child, kid |
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少年:中性名詞🤖 | αγόρι | アゴーリ | agori | [英] boy |
少女:中性名詞🤖 | κορίτσι | コリーツィ | koritsi | [英] girl |
職業や活動・身分を表す名詞では、まず「男性名詞👦」がベースとなり、接尾辞(-αなど)でで対応させた「女性名詞👧」が別に存在する、という傾向が多く見られます。
教師(男):男性名詞👦 | δάσκαλος | ダスカロス | daskalos | [英] male teacher |
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教師(女):女性名詞👧 | δασκάλα | ダスカーラ | daskala | [英] female teacher |
ですが最近では、社会の変化に伴い、もとの男性名詞を「通性・混合性👦👧」として共通で使用するケースも増えています。
弁護士:通性👦👧 | δικηγόρος | ディキゴーロス | dikigoros | [英] lawyer, attorney |
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患者:通性👦👧 | ασθενής | アステニス | asthenis | [英] patient |
貴族:通性👦👧 | ευγενής | エヴゲニス | evgenis | [英] noble, aristocrat, peer |
通性の名詞を用いる場合、冠詞をその対象の性別に応じて使い分けます。
- ο δικηγόρος | 男性弁護士
- η δικηγόρος | 女性弁護士
抽象名詞
人や物のような具体的なことがらでなく、抽象的なことがらを表す名詞は「女性名詞👧」であることが多いです。
愛:女性名詞👧 | αγάπη | アガーピ | agapi | [英] love |
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知識:女性名詞👧 | γνώση | グノーシ | gnosi | [英] knowledge |
健康:女性名詞👧 | υγεία | イギーア | ygeia | [英] health |
制限:男性名詞👦 | περιορισμός | ペリオリズモス | periorismos | [英] restriction, limitation, constraint |
上機嫌、意気揚々:中性名詞🤖 | κέφι | ケーフィ | kefi | [英] high spirits, good humour |
動物を表す単語
多くの場合、愛玩動物・家畜には複数の単語が存在します。
最もよく用いられる単語は「性別を問わない・または文法性と同じ性別」を表し、それとは逆の性別を表す単語がもうひとつ存在する、というパターンが一般的。
犬👦👧、またはオスの犬👦:男性名詞👦 | σκύλος | スキーロス | skylos | [英] dog / male dog, he-dog |
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メスの犬👧:女性名詞👧 | σκύλα | スキーラ | skyla | [英] female dog, bitch |
猫👦👧、またはメスの猫👧:女性名詞👧 | γάτα | ガータ | gata | [英] cat / female cat, she-cat |
オスの猫👦:男性名詞👦 | γάτος | ガートス | gatos | [英] male cat, tom cat |
さらに「中性名詞🤖」もありますが、意味は動物によって異なります。
犬👦👧:中性名詞🤖 | σκυλί | スキーリ | skyli | [英] dog まれに「子犬👦👧」としても用いる |
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子猫👦👧:中性名詞🤖 | γατί | ガーティ | gati | [英] kitten, small cat |
野生動物の場合、該当する単語はひとつだけ、というパターンが多め。
キツネ👦👧:女性名詞👧 | αλεπού | アレプー | alepou | [英] fox |
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ゾウ👦👧:男性名詞👦 | ελέφαντας | エレファンダス | elefantas | [英] elephant |
無生物(物質・自然現象など)
無生物の場合、文法性の区分に特定の傾向は見られず、いずれの性に属する場合もあります。
風、空気:男性名詞👦 | αέρας | アエーラス | aeras | [英] wind, air |
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椅子:女性名詞👧 | καρέκλα | カレークラ | karekla | [英] chair |
穀粉、特に小麦粉:中性名詞🤖 | αλεύρι | アレーヴリ | alevri | [英] flour |
外来語
多くの場合、人を表す単語は「男性名詞👦」か「女性名詞👧」あるいは「通性👦👧に」、無生物は「中性名詞🤖」に割り当てられます。
マネージャー:通性👦👧 | μάνατζερ | マナズェル | manatzer | [英] manager 英語managerから |
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エレベーター、リフト:中性名詞🤖 | ασανσέρ | アサンセル | asanser | [英] elevator, lift フランス語ascenseurから |
ただし、割り当てに際しては、以下のような事項が考慮されることもあります。
元の言語での性と語尾
例えば、イタリア語の女性名詞-a👧をギリシャ語に取り入れる場合、ちょうどギリシャ語の-αと形も似ていることから「女性名詞👧」に割り当てられています。
ピザ:女性名詞👧 | πίτσα | ピーツァ | pitsa | [英] pizza イタリア語pizzaから |
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一方、イタリア語の男性名詞-o👦の場合、ギリシャ語の-oとの形的な類似性が考慮され「中性名詞🤖」となります。
ピアノ:中性名詞🤖 | πιάνο | ピアーノ | piano | [英] piano イタリア語pianoから |
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関連するギリシャ語の名詞の文法性
元の言語に文法性の区別がない場合や、ギリシャ語に似た語尾がない場合、関連する名詞の性が考慮されます。
例えば、英国の新聞「タイムズ」は、χρόνοςやκαιρός(時間)の性と同じ「男性名詞👦」として扱われます。
タイムズ(英国の新聞):男性名詞👦 | Οι Τάιμς | イ タイムス | Oi Taims | [英] The Times |
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カメラのブランド名「Canon」は、φωτογραφική μηχανή(カメラ)と同じ「女性名詞👧」になります。
Canon(キヤノンのカメラ):中性名詞🤖 | Κάνον | カノン | Kanon | [英] Canon |
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Appleのコンピューター「マッキントッシュ」の場合、πολογιστής(コンピュータ)と同じ「男性名詞👦」です。
マッキントッシュ(Appleのコンピューター):男性名詞👦 | Μάκιντος | マーキンドス | Makintos | [英] Macintosh |
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語尾と語形変化
名詞の代表的な語形、つまり「辞書に載っている語形」は「単数主格形」です。
ギリシャ語では、名詞を数(単数・複数)および格(主格・属格・対格・呼格)に応じて語形変化させる必要があります。
男性名詞👦の「辞書に載っている語形」の多くは語尾が-ς、女性名詞👧は-αや-η、中性名詞🤖は-οや-ιで、変化の仕方にはさまざまなタイプがあります。
一致(呼応)
名詞を修飾する単語(形容詞、限定詞)および冠詞は、対象の名詞の文法性にあわせて語形を一致(呼応)させます。
一致の基本
上の例では、άντρας(男の人)が「男性名詞👦」なので、限定詞αυτός、冠詞ο、形容詞καλόςの語形がすべて「男性形👦」になっています。

αυτή👧 (η👧) καλή👧 γυναίκα👧
アフティ(イ)カリ イネーカ
良い女の人
this (the) good woman
γυναίκα(女の人)が「女性名詞👧」なので、他もすべて「女性形👧」になっています。

αυτό🤖 (τό🤖) καλό🤖 παιδί🤖
アフトー(ト)カロ ペディ
良い子ども
this (the) good child
παιδί(子ども)が「中性名詞🤖」なので、他もすべて「中性形🤖」になっています。
それぞれの名詞にあわせる
形容詞や限定詞、冠詞は「主語の性別」ではなくて、修飾する「それぞれの名詞の文法性」にあわせます。
例えば「マリアは良い子どもです」と言う場合、マリア👧が女の子だからといって、文中のすべての単語が女性形をとるわけではありません。
以下のように、ひとつめの名詞「マリア👧」にかかる冠詞は「女性形👧」に、ふたつめの名詞「子ども🤖」にかかる冠詞と形容詞は「中性形🤖」になります。

Η👧 Μαρία👧 είναι το🤖 καλό🤖 παιδί🤖.
イ マリア イネ ト カロ ペディ
マリアは良い子どもです。
Maria is the good child.
もうひとつ例を挙げます。

Ο👦 Πέτρος👦 έχει καλή👧 προσωπικότητα👧.
オ ペトロス エヒ カリ プロソピコーティタ
ペトロスは性格が良い。
Peter has good personality.
この場合、ひとつめの名詞「ペトロス👦」にかかる冠詞はもちろん「男性形👦」です。
そして、ふたつめの名詞「性格」は「女性名詞👧」です。したがって、これにかかる形容詞も「女性形👧」となります。
さらにややこしいですが、野生動物のように、性別に応じた単語がない場合の用法について。

η👧 αρσενική👧 αλεπού👧
イ アルセニキ アレプー
オスのキツネ
the male fox
このキツネの性別はオス👦ですが、名詞「キツネ👧」の文法性にあわせ、冠詞および「「男性の」という意味の形容詞」を「女性形👧」にしています。

ο👦 θηλυκός👦 ελέφαντας👦
オ シリコス エレファンダス
メスのゾウ
the female elephant
ゾウさんの実際の性別はメス👧ですが、名詞「ゾウ👦」の文法性にあわせ、冠詞および「「女性の」という意味の形容詞」の「男性形👦」を用いています。
性別が特定されていないとき
文脈上、名詞が指す対象の性別が特定されていないときは「男性名詞👦」を用いるのが一般的です。「通性の名詞👦👧」なら、冠詞を「男性形👦」にします。
例えば「この本の作者は…」といった話をする上で、作者の性別がわかっていない場合や、話者にとって性別への言及が必要ない場合、その作者の文法性を「男性👦」として扱います。

ο👦 συγγραφέας👦👧 αυτού του🤖 βιβλίου🤖
オ シングラフェアス アフトゥ トゥ ヴィヴリウ
この本の作者(性別不定、もしくは男性)
the author of this book
言い換えると、前後の文脈なしにこの表現だけを見ても、話者が「作者の性別を男性👦として話している」か「特定せず👦👧に話している」かは判断できない、ということになります。
なので、明確に「男性作家」と言いたければ、以下のように言葉を足すなどの方法をとります。

ο👦 άντρας👦 συγγραφέας👦👧...
オ アンドゥラス シングラフェアス…
男性作家…
the male author...
αυτός👦 (ο👦) καλός👦 άντρας👦
アフトース(オ)カロス アンドゥラス
良い男の人
this (the) good man