ギリシャ語の人称代名詞の用法についてまとめます。
概説
ギリシャ語の人称代名詞は、指し示す対象の「数」や「格」によって語形が異なります(三人称は「文法上の性」も)。
さらに、それぞれについて「弱形」と「強形」の二種類が存在します。
数・格・性の意味や役割については名詞に準拠しますので、それぞれのページへのリンクを掲載します。
人称代名詞の語形の一覧は、以下にまとめています。
人称代名詞(弱形・接語)
人称代名詞の「弱形」と「強形」のうち、広く用いられるのは「弱形」のほうです。
単音節でストレス(アクセント)がなく、他の単語とつなげて読まれることから「弱形」あるいは「接語」代名詞と呼ばれます。
「弱形」の主な用法は以下の通りです。
動詞の目的語(対格・属格)
直接目的語は「対格」、間接目的語は「属格」をとります。
また、原則として、目的語となる人称代名詞は「動詞の直前」に置かれます。
Η αστυνομία τον έπιασε.
警察は彼をつかまえた。
The police caught him.
目的語がふたつある文では、間接目的語(属格)が直接目的語(対格)の前に置かれます。語順については柔軟なギリシャ語ですが、これは固定です。
Μου το έδωσες.
あなたは私にそれをくれた。
You gave it to me.
Δεν θα μου το δώσεις.
あなたは私にそれをくれないでしょう。
You will not give it to me.
命令文では逆の順序にすることもできます。
Δώσε μου το.
私にそれをください。
Give it to me.
Δώσε το μου.
私にそれをください。
Give it to me.
動名詞とともに用いる場合も。
δίνοντάς μου το
私にそれを与えること
giving it to me
δίνοντάς το μου
私にそれを与えること
giving it to me
所有者・行為者(属格)
所有や行為者(英語のmy, your... に相当)を表す人称代名詞は、名詞のうしろに置かれます。
ο πατέρας μου
私の父(所有)
my father
τα σπίτια τους
彼らの家(所有)
their houses
η βοήθειά σου
あなたの助け(行為者)
your help
形容詞や数詞がいっしょに用いられる場合、語順は「形容詞・数詞→人称代名詞→名詞」となります。
το παλιό μου αυτοκίνητο
私の古い車
my old car
οι πέντε της κόρες
彼女の五人の娘たち
her five daughters
人数・配分とその人称(属格)
人数(配分)を表す数詞や代名詞とともに、それらの人称を示します。
οι τρεις μας
私たちの三人
the three of us
κανένας σας
あなたたちの誰も(…ない)
none of you
ο καθένας μας
私たち一人ひとり、私たちそれぞれ
each of us
όλοι τους
彼らの全て
each of them
副詞への従属(属格)
人称代名詞が副詞(主に場所を表す副詞)に従属する場合、弱形の属格を用います。
ανάμεσά τους
彼らの間の
between them
μπροστά μου
私の前で
in front of me
弱形とストレスの追加について
ここまでに挙げた例文の赤字部分、ストレス(アクセント)の追加に関する補足です。
ギリシャ語には「ストレスは最後から三番目の音節より前に置かれない」というルールがあります(→ストレス(アクセント))。
そして、はじめに記したように、弱形にはストレスがありませんので、音韻的には「弱形の前の単語+弱形」でひとつの単語扱いとなります。
したがって、「前の単語」のストレスが最後から三番目の音節にある場合、ふたつをつなげて読むと、ストレスが最後から四番目にあるような、つまりルールに反した感じの音になってしまいます。
例えば「助け, βοήθεια(ヴォ-イ-シ-ア)」のストレスは「最後から三番目の音節」にあります。
これを、弱形と合わせて「あなたの助け」と表す場合、音としてはβοήθεια σου(ヴォ-イ-シ-ア-ス)、つまり最後から四番目の音節にストレスがあるように聞こえてしまいます。
これを回避するために追加されるのが、赤字で示したストレスです。弱形代名詞の直前にストレスがもうひとつ追加され、元のストレスはそのまま残ります。
βοήθειά σου
あなたの助け
your help
弱形がふたつ続く場合、新たなストレスが弱形代名詞自身につくケースもあります。
Δώστε μού το.
それを私にください。
Give it to me.
人称代名詞(強形)
「強形」の主な用法は以下の通りです。
主語
ギリシャ語ではふつう、主語の人称代名詞が省かれます。動詞の活用語尾で「主語の人称や数」がわかるからです。
(Εγώ) Μπαίνω.
私は入ります。
I go in.
(Εσύ) Μπαίνεις.
あなたは入ります。
You go in.
強調の意図などにより主語の人称代名詞を言う場合には、必ず「強形」を用います。弱形を主語とすることはできません。
Εγώ Μπαίνω.
私が入ります。
I go in.
Εσύ Μπαίνεις.
あなたが入ります。
You go in.
Ποιος το έκανε;
誰がそれをしたの?
Who did it?
Εγώ.
(他の誰でもなく)私です。
I did.
目的語の強調
動詞の直接目的語(対格)や間接目的語(属格)を強調したいとき。
Εσένα είδα.
私は(他の誰でもなく)あなたをを見ました。
I saw you.
話題化(主題化)
もとの弱形人称代名詞はそのまま残し、対応する強形を文の先頭に追加し、強調の意味を表します。
英語のas for...に類似した用法。
Εσένα σε είδα.
(あなたに関して言えば)私はあなたを見ました。
As for you, I saw you.
特定の前置詞のうしろ
前置詞χωρίςとσανの直後に人称代名詞が置かれるとき、必ず強形が用いられます。
Πήγαν χωρίς εμένα.
彼らはわたし抜きで行った。
They went without me.
Δεν ξέρω κανέναν άλλον σαν εσένα.
あなたのような人は知りません。
I don’t know anyone else like you.
前置詞από, για, με, σεの後に続く人称代名詞は、強調の意味をもたせる場合、強形を用いることもできます。
なお、από, γιαの後の「一人称・二人称の対格」は、最初の母音を失います。
To έμαθα από σένα.(εσέναのεが消失)
私はあなたからそれを学びました。
I learned it from you.
さらに「一人称・二人称の対格複数」は、ストレス(アクセント)を失い、単音節となります。弱形と同じ語形となりますが、発音の際には強調されます。
To έκαναν για μας.
(εμάςのεと、άのストレスが消失)
彼らは私のためにそれをしました。
They did it for us.
集団を示す
we Greeks(私たちギリシャ人)のような「集団を示す人称代名詞」は強形となります。
εμείς οι Έλληνες
私たちギリシャ人は
we Greeks
σ’εμάς τους Έλληνες
私たちギリシャ人を
to us Greeks