ギリシャ語の、派生語や複合語、頭字語といった語形成のプロセスについてまとめます。
ここでは語の構成要素の理解を第一の目的とし、語彙一覧については個別のページでまとめることとします。
派生語
ギリシャ語の派生語の形成プロセスは、接辞(接尾辞、接頭辞)の付加、およびゼロ派生と呼ばれる品詞転換の三種に大別されます。
接尾辞付加
接尾辞は次のような語幹の後に置かれ、もとの単語に意味を加えたり、品詞を変えたりして派生語を形成します。
- 名詞の主格単数形の語幹
- άνθρωπ-ος (男性)→ανθρώπ-ινος (人間)
- 名詞の主格複数形の語幹
- καφέδες(コーヒーの複数形)→καφεδ-άκι(少しのコーヒー)
- 動詞の非完結語幹
- τρέχ-ω(走る)→ τρεχ-άλα(ランニング)
- 動詞の完結語幹
- πλένω(洗う) → πλυν-τήριο(洗濯機)
- 第二種活用動詞の非完結語幹 + η
- προπον-ώ(訓練する)→ προπον-η-τής(訓練士)
- 語幹の末尾が-ασ-である第二種活用動詞の完結語幹
- κερν-ώ(おごる)→ κέρ-ασ-μα(おごり)
以下、接尾辞による各品詞の形成例をひとつずつ掲載します。
名詞の形成例
-άκιは、他の中性名詞や形容詞から中性名詞を作ります。もとの単語に小ささや親しみ、愛情、場合によっては価値の下落などの意味を与える接尾辞で、指小辞とも呼ばれます。
- καφές|コーヒー
- καφεδάκι|少しのコーヒー、小さなカップに入ったコーヒー
- λάθος|間違い
- λαθάκι|小さな間違い
- μικρός|小さい
- μικράκι|小さなもの
形容詞の形成例
-ένιος/-α/-οまたは-ινος/-η/-οは、名詞や副詞から形容詞を作ります。
- πέτρα|石
- πέτρινος|石の
- σίδερο|鉄
- σιδερένιος|鉄の
- τίποτα|何も(…ない)
- τιποτένιος|価値のない
動詞の形成例
-αίνωは、名詞や形容詞から動詞を作ります。
- βαθύς|深い
- βαθαίνω|深める
- ξανθός|金髪の、ブロンドの、金色の
- ξανθαίνω|金髪(ブロンド)になる、染める
- πλήθος|大衆、群衆
- πληθαίνω|増やす
接頭辞付加
接頭辞の多くは前置詞(古代ギリシャ語、あるいは現代ギリシャ語の)に由来するものです。
以下、いくつかの接頭辞と動詞βάλλω(撃つ、投げる)とで形成される派生語の例を挙げます。
- ανα-|英語のre-に相当する接尾辞
- αναβάλλω|遅らせる
- απο-|de-
- αποβάλλω|追放する、拒絶する
- δια-|inter-
- διαβάλλω|中傷する
- κατα-|強い程度を表す接尾辞
- καταβάλλω|圧倒する
接頭辞と次の語頭との間で、同化や削除といった現象が発生することがあります。
- κατα-|強い程度を表す接尾辞
- έχω|持っている
- κατέχω|所有する
ふたつ以上の接頭辞を用いた派生語もあります。
- αντι-|anti-
- δια-|inter-
- στέλλω|送る
- αντιδιαστέλλω|対比する、区別する
ゼロ派生(品詞転換)
ゼロ派生(品詞転換)は、ギリシャ語における接辞を付加せずに新しい単語を形成するプロセスです。この派生形態は、英語のempty(動詞と形容詞)やfight(名詞と動詞)などと同様のものです。
しかし、ギリシャ語の単語は、語幹とそれが属する品詞に適した語尾から構成されています。したがって、ギリシャ語のゼロ派生は、同じ語幹を共有しながら異なる語尾を持つ、異なる品詞の単語のペアとして理解されます。
- γράφω|書く(動詞)
- γραφή|筆記(名詞)
- πλάγιος|斜めの(形容詞)
- πλαγιά|坂、勾配(名詞)
- βάλλω|撃つ(動詞)
- βολή|発射(名詞)
また、品詞も同じで性が異なるペアも、これに該当します。
- κουτάλι|スプーン(中性名詞)
- κουτάλα|おたま(女性名詞)
複合語
複合語は「語幹 + 別の単語」または「語幹 + 別の語幹」で形成され、以下のように分類されます。
構造上の分類
内心複合語
「語幹 + 別の単語」で構成される複合語は「内心複合語」と呼ばれます。複合語の品詞を示す形態学的要素がふたつめの側に属するためです。
- χιόν-ι|雪(中性名詞)
- άνθρωπος|人、男性(男性名詞)
- χιονάνθρωπος|雪男(男性名詞)
外心複合語
一方「語幹 + 別の語幹」で構成される複合語は、品詞を示す要素が(どちらの語にも属さず)その外側にあることから「外心複合語」と呼ばれます。
- αλάτ-ι|塩
- ο|連結母音(後述)
- πιπέρ-ι|胡椒
- -ο|中性名詞の語尾
- αλατοπίπερο|塩胡椒(中性名詞)
意味上の分類
限定複合語
ひとつの要素がふたつめを限定的に修飾する複合語。後者が語の主要部となります。
- ψαρ-|ψάρι(魚)の語幹
- σούπα|スープ
- ψαρόσουπα|魚のスープ
従位(従属)複合語
ひとつめの要素がふたつめの対象や道具などを示し、主要部を従属的に補完する複合語。
- οργαν-|όργανο(楽器)の語幹
- παίκτης|奏者、プレイヤー
- οργανοπαίκτης|楽器奏者
通常は後者が語の主要部ですが、逆になることもあります。
- φιλ-|φίλος(友達)の語幹
- ζω-|ζώο(動物)の語幹
- φιλόζωοςまたはζωόφιλος|動物を愛する人
- καρδι-|καρδιά(心臓)の語幹
- χτυπ-|χτύπος(鼓動)の語幹
- καρδιοχτύπιまたはχτυποκάρδι|心拍
等位複合語
各要素が互いに依存せず配置された複合語。両方が意味的に主要部となります。
- λαδ-|λάδι(オリーブオイル)の語幹
- λεμον-|λεμόνι(レモン)の語幹
- λαδολέμονο|オリーブオイルとレモンのドレッシング
連結母音
複合語のふたつの要素は、連結母音-ο-で結ばれます。
- αναβ- + o + σβήνω
- αναβοσβήνω|オンとオフを切り替える
ただし、ふたつめの要素が母音α-ではじまる限定、従位複合語では、連結母音が出現しません。
- χιόν-ι|雪(中性名詞)
- άνθρωπος|人、男性(男性名詞)
- χιονάνθρωπος|雪男(男性名詞)
これは、母音 /a/ の「聞こえ度」が /o/ より上位であるために起こる「母音削除」の現象です。
等位複合語においては、ふたつめがα-であっても連結母音が保持されます。
- μαυρ-|μαύρος(黒い)
- άσπρος|white(白い)
- μαυρόασπρος|黒と白
また、μεγαλο-やμικρο-などとα-が結合する場合にも、連結母音が保持されます。
- μεγαλο-|μεγάλοςの語幹
- αγρότης|農家
- μεγαλοαγρότης|大農園を所有する農家
頭字語
頭字語(unidentified flying object:UFO、のようなもの)は派生語や複合語とは異なり、形態的なプロセスを経て形成されるものではありません。
ですが、ギリシャ語においては頭字語にも文法上の性が割り当てられるなど、形態的にも音韻論的にも通常の単語のように扱われるので、ここでいっしょに取り扱うこととします。
頭字語は大文字で書かれ、もとの語句の主要部の性が割り当てられます。
- o ΟΣΕ = Οργανισμός Σιδηροδρόμων Ελλάδος
ギリシャ国鉄、ギリシャ鉄道
Hellenic Railways Organisation (Organization of Railways of Greece)
- το ΣΔΟΕ = Σώμα Δίωξης Οικονομικού Εγκλήματος
(金融犯罪を訴追するための機関)
Body for the Prosecution of Financial Crime
- η ΔΟΥ = Δημόσια Οικονομική Υπηρεσία
(公的金融サービス)
Public Financial Service
基本的にはふつうの単語と同じように発音され、音韻的なルールも適用されます。
- ΟΣΕ [osé]
- ΣΔΟΕ [zDόe]
- ς + δの同化現象で/s/ → /z/
- ΔΟΥ [Dόi]または[Dόj]
- ストレスのない/i/ + 母音で二重母音化
ギリシャ語では通常発生しない子音列を含む場合、子音のみで構成されている場合には、それが単語として発音できるよう /u/ や /i/ などの母音が付加されることがあります。
- το ΚΚΕ [kukué] = Κομμουνιστικό Κόμμα Ελλάδος
ギリシャ共産党
Communist Party of Greece
あるいは、アルファベットそのままに読まれることもあります(イニシャリズム)。
- το ΚΚΕ [kápa kápa épsilon]
ハイブリッドな読み方が採用されることも。
- το ΚΚΕ [kápa kápa é]
頭字語から派生語などが形成される例もあります。
- το ΚΚΕ|ギリシャ共産党
- κουκουές|KKEのメンバー