形態素間、単語間の音韻現象(同化と削除)

形態素や単語の隣接で発生する音韻現象についてまとめました。前半は同化、後半は削除についてです。

目次

概説

同化や削除は、主に次のような形態素、単語の境界で発生します。

  • 冠詞 + 名詞や形容詞
  • 前置詞 + 副詞または名詞句
  • 小辞ναやθα + 動詞
  • 弱形代名詞 + 動詞
  • 名詞、形容詞、動名詞、動詞の命令形、副詞 + 弱形代名詞
  • 接辞と語基の連接部

同化

ある音が、隣接する音に似るように変化する現象。ギリシャ語に適用されるプロセスは、調音位置における同化、調音方法における同化です。

調音位置の同化(/n/の変化)

弱形人称代名詞や定冠詞の末尾の鼻音-νは、後に続く子音が両唇音、唇歯音、硬口蓋、軟口蓋のときに調音位置が同化します。

例えばτον φίλησεという言葉の場合、代名詞/ton/の/n/は、後に続く唇歯音の/f/と同化し、唇歯鼻音/ɱ/になります。

  • τον φίλησε|彼女は彼にくちづけをした
  • /ton filise/→/toɱfilise/

次の場合、両唇音/p/と同化して、両唇鼻音/m/に変化します(/m/に続く/p/は有声化して/b/の音になっています)。

  • τον πατέρα|父を、父に
  • /ton patera/ → /tombatera/

次の場合、軟口蓋音/k/と同化して、軟口蓋鼻音/ŋ/に変化します(後述の規則によって/k/も有声化)。

  • τον κουβά|バケツを
  • /ton kuva/ → /toŋguva/

調音方法の同化

無声破裂音→鼻音の後で有声化

  • δεν κατάλαβα|理解しなかった
  • /δen katalava/ →/Deŋgatalava/

なお鼻音/n/のほうは、前の規則によって軟口蓋化して/ŋ/に変わっています。

後続の子音との同化で無声化、有声化

鼻音、流音を除く子音は、後続の子音(こちらは鼻音、流音を含む)と音声的に同化し、有声化または無声化します。

  • μας δώσανε|彼らは私達に与えた
  • /mas δosane/ → /mazδosane/
  • ε-|古代ギリシャ語の接頭辞「良い」
  • τύχη|運
    • ευτυχία|幸福
  • /ev-/ + /tixia/
    • /eftiçia/

削除

ある音が、隣接する音の影響で消失する現象。 子音削除と母音削除に分類されます。

子音削除

同一子音の連続でひとつを削除

単語内、またはふたつの単語の隣接する箇所に同じ子音が連続する場合、そのうちのひとつが削除されます。

例えばμας σώσατε(あなたは私を救った)というフレーズでは/s/の音が連続するため、ひとつが消えます。

  • /mas sosate/ → /masosate/

次は、動詞の完結語幹の形成による例です。

  • χτίζω|建てる・現在形
  • χτίσω|従属形

能動完結語幹は、もとの語幹の後に「接辞/s/」を加えることで形成されます。したがって、/xtiz-o/の能動完結語幹は/xtiz-s-o/が本来の音素です。

ただし/z/は後続の/s/と同化して無声化するため/xtis-s-o/になり、この重複する/s/がひとつ消え、最終的に/xtis-o/となります。

流音前の鼻音を削除

συν-などの接頭辞がついた単語にみられる現象です。流音/l/, /r/の前の鼻音/n/が削除されます。

  • συν-|接頭辞「いっしょに」
  • λέγω|選ぶ、数える、言う
    • συλλέγω|集める
  • /sin/
  • /leɣo/
    • /sin-leɣo/→/sileɣo/

συν- + /s, z/での鼻音削除

接頭辞のσυν-がついた単語において、/sin-/が/s/, /z/(歯茎摩擦音)と接続するとき、/n/の音が削除されます。

  • συν-|接頭辞「いっしょに」
  • σίτιο|小麦、パン(σίτος→σίτιονを経て)
    • συσσίτιο|炊き出し、スープキッチン
  • /sin/
  • /sitio/
    • /sin-sitio/→/sisitio/

語幹末尾の/n/ + 完結語幹の接辞/s/, /θ/で鼻音削除

  • δέν-ω|結ぶ・現在形
  • δέσ-ω|従属形(能動完結語幹)
  • δεθ-ώ|従属形(受動完結語幹)

受動完結語幹は、もとの語幹の末尾に「接辞/θ/」を加えることで形成されます。

  • /δen-ο/
  • /δen-s-ο/→/δes-ο/
  • /δen-θ-ο/→/δeθ-ο/

定冠詞の対格女性形/n/ + 摩擦音・流音で鼻音削除

定冠詞の対格女性形τηνの末尾の/n/は、摩擦音または流音/l/, /r/の前で削除されます。

ふつう、音だけでなく、文字の-νも書かれません。

  • τη θάλασσα|海
  • /tin θalasa/→/tiθalasa/
  • τη λύπη|悲しみ
  • /tin lipi/→/tilipi/

なお、男性形τονの場合、この規則での/n/の削除は「任意で」行われます。

弱形人称代名詞(女性・対格)/n/ + 摩擦音・流音で鼻音削除

上記と同じ規則です。男性を表す代名詞の場合も同様に任意。

  • τη φοβάμαι|私は彼女が怖い
  • /tin fovame/→/tifovame/
  • τη ρώτησε|彼は彼女に尋ねた
  • /tin rotise/→/tirotise/

語幹末尾の歯摩擦音/θ, δ/ + 完結完結語幹/s/で歯摩擦音を削除

  • πλάθ-ω|形成する・現在形
  • πλάσ-ω|従属形(能動完結語幹)
  • /plaθ-ο/
  • /plaθ-s-ο/→/plas-o/

母音削除

単語内では「ストレスのない/i/+母音」を除き、基本的にはふたつの母音が続いても問題ありません。

しかし、複合語内の形態素間やフレーズ内の単語間では、ふたつの母音が続くと、そのうちのひとつが削除される可能性があります。

ふたつの母音のどちらを削除するかを決める要因はかなり複雑ですが、最も重要なのは母音の「聞こえ度」です。

聞こえ度

ある音声が同じ強さ・高さ・長さであることを条件にして、他の音声と比較しどれだけ遠くに届くのかを示す指標。

聞こえ - Wikipedia

ギリシャ語の母音の「聞こえ度」は、高いほうから順にa > o > u > e > iであるとされています。

ふたつの母音が並んだとき、この聞こえ度が高いほうが残り、低いほうが削除される傾向にあります。

弱形代名詞 + 母音ではじまる動詞

例えばτα είπα(私はそれを言った)というフレーズの場合、隣接するふたつの母音のうち、聞こえ度の低い/i/が削除されることがあります。

  • τα είπα→τα ’πα|私はそれを言った
  • /ta ipa/→/tapa/

次の例では逆に、代名詞の語尾/ou/のほうが削除の対象になります。

  • μου άρεσε→μ’ άρεσε|私はそれを好んだ
  • /mu arese/→/marese/

小辞 + 母音で始まる動詞

  • θα έρθει→θα ’ρθει|彼は来るだろう
  • /θa erθi/→/θarθi/

古代ギリシャ語由来の、特に接頭辞の末尾(かならず)

ディモティキ系の語彙において、上の「人称代名詞 + 動詞」や「小辞 + 動詞」での母音の削除は任意です。

一方、古代ギリシャ語由来の単語、特に接頭辞が用いられた単語では、必ず母音の削除をすべきとされます。

そしてこの場合、聞こえ度の低いほうではなく「接頭辞の末尾」側の母音が削除対象になります。

  • κατα-|強い程度を表す接頭辞
  • έχω|持っている
    • κατέχω|所有する
  • /kata-/
  • /exo/
    • /kata-exo/→/katexo/
  • επι-|上方向や繰り返しを表す接頭辞
  • έρχεται|来る(έρχομαιの三単)
    • επέρχεται|近づいてくる
  • /epi-/
  • /erxete/
    • /epi-erxete/→/eperxete/

冠詞 + 名詞・形容詞(まれに)

定冠詞の中性形と名詞・形容詞で母音が連なるとき、まれに削除が発生します。この削除は「聞こえ度」で判断されます。

  • το αβγό→τ’ αβγό|たまご
  • /to avɣo/→/tavɣo/

特に、άλλος という形容詞との接続で削除が行われる傾向にあります。

  • το άλλο→τ’ άλλο|他の
  • /to alo/→/talo/

前置詞・副詞 + 定冠詞

前置詞のσε(…で)と定冠詞が並ぶとき、前置詞の-εは必ず削除されます。

  • σε το τραπέζι→στο τραπέζι|テーブルで、席について
  • /se to trapezi/→/sto trapezi/

前置詞のαπό(…から)と定冠詞の場合、削除は任意です。

  • από την Ελλάδα→απ’ την Ελλάδα|ギリシャから
  • /apo tin elaδa/→/aptinelaδa/

なお、上記の削除例では/p/と/t/で破裂音が連続しますが、このような削除の結果である場合、異化のルール(一方が摩擦になるやつ)は適用されません。

副詞のμέσα(…の中で)と定冠詞の場合も、削除は任意で行われます。

  • μέσα σε την πόλη|街の中で
    • →μέσα στην πόλη(これは必ず)
      • →μες στην πόλη(これは任意)
  • /mesa se tin poli/
    • /mesastimboli/
      • /mestimboli/

単数命令形/-e/ + 弱形代名詞/t-/

単数命令形の語尾/e/は、/t/からはじまる弱形代名詞が続くときに削除されることがあります。

  • δώσε το→δώσ’ το|それを与えなさい
  • /δose to/→/δosto/

母音で終わる単語 + 人称代名詞・副詞/e-/

母音で終わる単語と、ストレスのない/e/ではじまる人称代名詞や副詞のεδώ(ここに)、εκεί(そこに)が並ぶとき、/e/は削除されることがあります。

  • θα πάω εγώ|私が行くでしょう
    • →θα πάω ’γώ
  • /θa pao eɣo/
    • →/θa paoɣo/
  • φέρε τα εδώ|それらをここに持ってきなさい
    • →φέρ’ τα ’δώ(命令形の削除も)
  • /fere ta eδo/
    • →/fertaδo/
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