多くの言語では、動詞の活用と言えば「語尾」の変化のことを指します。
ですが、ギリシャ語の場合はひとつの動詞に「語幹」が複数あったり、語頭に母音をくっつけたりくっつけなかったり…活用の仕方がとても複雑です。
そこで本ページでは、文法事項の説明にさきだち、まずは動詞の「どの部分」が「何を示すか」についてかんたんにまとめておくこととしました。
以下、φτιάχνω(フティアーフノ)という動詞を例にお話を進めます。「作る、建てる」などの意味を持つ単語です。
作る、建てる | φτιάχνω | フティアーフノ | ftiachno |
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語尾
時制・相・態
ギリシャ語の動詞の語尾は「時制(現在と過去)」と「相(非完結と完結)」と「態(能動と受動)」を示します。
補足:相(英語とギリシャ語の比較)
相とは「時間の幅」のことです。
英語では、動詞の形で「進行相」と「単純相」が区別されます。また、haveを用いることで「完了相」を表します。
進行 | am making |
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単純(普通) | make |
完了 | have made |
ギリシャ語の相は、以下の三種類となります。動詞の形で「非完結相」と「完結相」が区別され、έχωを用いて「完了相」を表します。
非完結 | φτιάχνω |
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完結 | φτιάξω |
完了 | έχω φτιάξει |
持つ | έχω | エホ | echo |
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語尾が示す時制・相・態
- 現在・非完結&完結・能動
φτιάχν-ω|作っている、作る
making, make - 過去・非完結&完結・能動
έ-φτιαχν-α|作っていた
was making
έ-φτιαξ-α|作った
made - 現在・非完結・受動
φτιάχν-ομαι|作られている
is being made - 現在・完結・受動
φτιαχτ-ώ|作られる(普通の文では使わない)
is made - 過去・非完結・受動
φτιαχν-όμουν|作られていた
was being made - 過去・完結・受動
φτιάχτ-ηκα|作られた
was made
人称・数
時制と相、態を示すそれぞれの語尾は、主語の「人称」と「数」によってさらに形を変えます。
いっぱいあるので、一部だけ載せます。
- 現在・非完結&完結・能動
- φτιάχν-ω|私は作っている、作る
- φτιάχν-εις|あなたは作っている、作る
- φτιάχν-ει|彼は作っている、作る
- φτιάχν-ουμε|私たちは作っている、作る
- φτιάχν-ετε|あなたたちは作っている、作る
- φτιάχν-ουν|彼らは作っている、作る
- 過去・非完結&完結・能動
- έ-φτιαχν-α|私は作っていた
- έ-φτιαχν-ες|あなたは作っていた
- έ-φτιαχν-ε|彼は作っていた
(以下割愛)
以上のように、ギリシャ語の動詞の語尾は、6種類の「時制・相・態」と6種類の「人称・数」との組み合わせで、最大「36通り」に変化します。
語幹
ギリシャ語の動詞は複数の語幹を持ちます。語幹は「相」と「態」を示します。
「時制」は関係せず、また、主語の「人称」や「数」による変化もありません。
- 非完結・能動&受動
- φτιάχν-ω|私は作っている
- φτιάχν-ονταν|それらは作られていた
- 完結・能動
- έ-φτιαξ-ες|あなたは作った(普通の文では使わない)
- 完結・受動
- φτιάχτ-ηκε|それは作られた
以上のように、ギリシャ語の動詞の語幹は「態」と「相」の組み合わせで、最大「3通り」に変化します。
語頭
青字で示したέ-の字のこと。「過去時制」であることを示します。
- φτιάχν-ω|私は作っている、作る
- έ-φτιαχν-α|私は作った(語頭あり)
- φτιάχν-ουμε|私たちは作っている、作る
- φτιάχν-αμε|私たちは作っていた(語頭なし)
オーグメント
まずは用語について。この「語頭の母音έ」を指す文法用語はいろいろありますが、最も一般的な言い方はこれ、というものは無いように思います。
英語ではaugmentと言い、これをそのままカタカナにした「オーグメント」のほか「加音」や「増加音」「接頭母音」といった用語で説明されることもあります。
当サイトではこれを「オーグメント」と記すことにしています。
過去時制のストレスは語尾から遠いところに
ギリシャ語においては、過去時制のストレス(アクセント)はできる限り「語尾から遠いところに」あることが望まれます。古代ギリシャ語の流れをくんでできあがったルールのようなものです。
ギリシャ語のストレスは「最後の音節」か「最後から二番目の音節」か「最後から三番目の音節」のいずれかに置かれます。
したがって、過去時制を表す動詞では、ストレスの位置が「できる限り語尾から遠く=最後から三番目の音節」になるよう、オーグメントで調整が行われます。
たとえば、φτιάχνω(私は作っている)を過去時制にする場合、単に語尾-ωを-αに置き換えるだけでは上記のルールが守られません(φτιά・χνα)。なので、オーグメントをくっつけてέ・φτια・χναとします。
一方、φτιάχνουμε(私たちは作っている)の場合、語尾を変えるだけでφτιά・χνα・μεとなるのでオーグメントは不要、というわけです。