ギリシャ語の動詞の種類(自動詞・他動詞)と、動詞句を構成する要素(目的語・補語など)についてまとめます。
概説
動詞は節の中心的な要素であり、原則として(一部の連結動詞を除いて)すべての節に含まれなくてはならない語です。
動詞と組み合わせることのできる構成要素の数と種類は、動詞の種類によって決定されます。
- 直接目的語・間接目的語
- 前置詞句
- 叙述補語
- 副詞類(副詞・副詞句・前置詞句・副詞節)
このうち、動詞句の核となるのは「目的語」です。目的語は、動詞と非常に密接な統語的・意味的関係で結合する語・あるいは句で、その要否と数は動詞の種類によって決定されます。
自動詞
目的語を必要としない動詞。次のように分類されます。
他に及ばない動作を表す能動形の動詞
ροχαλίζω(いびきをかく)、αναπνέω(呼吸する)、χαμογελώ(微笑む)、δακρύζω(涙を流す・目に涙をためる)など。
- Ο Γιάννης ροχαλίζει κάθε βράδυ.
ヤニスは毎晩いびきをかく。
John snores every night.
状態を表す能動形の動詞
πεινώ(お腹が空いている)、διψώ(のどが渇いている)、λάμπω(輝いている)、ιδρώνω(汗をかいている・汗ばむ)、φτάνω(到着する)、πέφτω(感じる)など。
- Ο Γιάννης πεινάει πολύ.
ヤニスはとても空腹だ。
John is very hungry.
他に及ばない動作を表す受動形の動詞
εργάζομαι(働く)など。
- Ο φίλος του Νίκου εργαζόταν όλη τη νύχτα.
ニコスの友達は一晩中働いていた。
Nick’s friend was working all night long.
状態を表す受動形の動詞
κοιμάμαι(眠る)、κάθομαι(座る)、φοβάμαι(怖がる)、λιάζομαι(日光にあたる)、ξεκουράζομαι(休憩する)など。
- Κοιμάμαι πάντα το μεσημέρι.
いつも昼まで眠っている。
I always sleep in the afternoon.
他動詞から派生した受動態
αγοράζω(買う)→αγοράζομαι(買われる)のような単純な派生。
- To βιβλίο αυτό αγοράστηκε από πολλούς φοιτητές.
この本は多くの生徒から買われた。
This book was bought by many students.
他動詞から派生した、再帰的な意味を持つ受動態
ντύνω(誰かに服を着せる)→ντύνομαι(自身が服を着る)
- Η Δανάη ντύνεται μόνη της.
ダナエは自分で服を着る。
Danae dresses herself.
自動詞にも他動詞にもなる動詞
πονώ(痛む/ 誰かに痛みを与える)のように、自動詞では状態や動作を表すのに対し、他動詞ではその状態をもたらす動作を表す、というのが典型的なパターンです。
- Πονώ.
痛みを感じている。
I'm in pain.
- Με πονάει η αδιαφορία του.
彼の無関心は私に痛みを与える。
His indifference hurts me.
γελώ(笑う / 誰かをだます)のように、自動詞の受身の意味が比喩的に拡張された他動詞になることもあります。
δουλεύω(働く / 何かに取り組む)のように、他に及ばない動作を表す自動詞が、他動詞として似た意味を持つこともあります。
連結動詞
英語のbe動詞やbecomeなどに相当する動詞のこと。これらは補語として機能する名詞句または形容詞句と結合します。
- Η Σούλα είναι ο πρόεδρός τους.
スーラは彼らの社長です。
Soula is their president.
- Η Σούλα είναι πολύ δυναμική.
スーラはとてもダイナミックです。
Soula is very dynamic.
補語節を必要とする非人称動詞
連結動詞以外にも、英語の助動詞のように機能する以下のような動詞も補語節と結合します。
- Πρέπει να του μιλήσουμε.
私たちは彼と話をすべきだ。
We must speak to him.
- Πότε πρόκειται να φύγετε;
いつ出発するつもりですか。
When are you going to leave?
他動詞(単一他動詞)
他動詞のうち、目的語をひとつ伴う動詞。多くは直接目的語をとります。
直接目的語は対格で示されます。
- Καλούμε τον Γιάννη.
私達はヤニスを招待する。
We invite John.
よりフォーマルな会話においては、動詞の目的語が属格となる(古代ギリシャ語起源の)表現も見受けられます。
- Ο καινούργος υπουργός θα επιμεληθεί της καταστάσεως.
新しい大臣がこの状況を処理します。
The new minister will take care of the situation.
直接目的語を伴わない場合
文脈から目的語が何であるかが理解される場合、単一他動詞は目的語を伴わずに用いられることがあります。
例えば次の文では、誰かに「書く」という表現から、それがメールや手紙であると一般的に理解されます。
- Έγραψε στο Γιάννη χθες.
彼女は昨日ヤニスに書いた。
She wrote to John yesterday.
次の場合、書くもの自体が何であるかは明示されませんが、文脈上「何かを書くときの話」であると理解されるため、目的語が省略されても問題ありません。
- Όταν γράφει δεν θέλει να τον διακόψει κανείς.
彼が書いているとき、彼は誰からも邪魔されることを望みません。
When he is writing he does not want anybody to interrupt him.
それから、動詞が単純な活動・習慣を表す場合にも、ときに目的語が省略されます。τρώω(食べる)やπίνω(飲む)など。
間接目的語をとる単一他動詞
μιλάω(話す)、απαντάω(答える)、αποκρίνομαι(応じる)、απευθύνομαι(訴える)、γνέφω (合図する)αρέσω(好む)、ταιριάζω(似合う)など、間接目的語をとる動詞もあります。
間接目的語は属格あるいは前置詞句で示されます。
- Σε παρακαλώ, μίλησε του Γιάννη.(属格)
ヤニスと話してください。
Please, speak to John.
- Σε παρακαλώ, μίλησε στον Γιάννη.(前置詞 + 対格)
ヤニスと話してください。
Please, speak to John.
間接目的語を伴わない場合
動詞が単純な行動を示すときには目的語を必要としません。
- Ο Γιάννης μιλάει.
ヤニスは話している。
John is speaking.
ταιριάζω(似合う)が間接目的語を伴わず、かつ複数形で用いられる場合には、次の文のように相互的な意味を持ちます。
- Τα ρούχα ταίριαξαν καλά.
それらの服どうしはよく合っていた。
The clothes matched one another well.
他動詞(二重他動詞)
ふたつの目的語をとる動詞。
直接目的語と間接目的語
ひとつは対格で示される直接目的語、もうひとつは属格または前置詞句で示される間接目的語です。
ただしμαθαίνω(学ぶ)、διδάσκω(教える)、ρωτώ(尋ねる)、κερνάω(奢る) など特定の動詞では、直接目的語と間接目的語の両方が対格となります。
- Κεράσανε τους φίλους τους παγωτό.(どちらも対格)
彼らは友達にアイスクリームを奢った。
They treated their friends to ice-cream.
間接目的語は、動詞が示す行為によって「間接的に影響を受ける」ものを表します。したがって、多くの場合間接目的語は生き物、特に人間です。
- 行為の受け手
- 受益者(行為の結果により利益を得る人)
- 直接目的語の出どころ
次の文において間接目的語は、行為の受け手を表します。
- Ο Γιάννης έδωσε ένα ωραίο βραχιόλι της Μαίρης.
ヤニスはメアリーにきれいなブレスレットをあげた。
John gave Mary a beautiful bracelet.
- Ο Γιάννης έδωσε της Μαίρης ένα ωραίο βραχιόλι.
ヤニスはメアリーにきれいなブレスレットをあげた。
John gave Mary a beautiful bracelet.
- Το έδωσε της Μαίρης.
彼はメアリーにそれをあげた。
He gave it to Mary.
- Της έδωσε το βραχιόλι.
彼は彼女にブレスレットをあげた。
He gave her the bracelet.
- Της το έδωσε.
彼は彼女にそれをあげた。
He gave it to her.
次の文では、受益者を表します。
- Η Ελένη μαγείρεψε του Νίκου σουτζουκάκια.
エレニはニコスのためにミートボールをつくった。
Helen cooked meatballs for Nick.
次の文では、直接目的語の出どころを表します。
- Χθες πήραν της Ελένης τρεις χιλιάδες ευρώ.
昨日、彼らはエレニから3,000ユーロをうばった。
Yesterday they took three thousand euros from Helen.
ただし、間接目的語を属格で表すのは、あまり一般的な方法ではありません。属格で表された間接目的語は次のように「所有」の意味と混同されることがあるためです。
- Χθες πήραν της Ελένης το πορτοφόλι.
昨日、彼らはエレニから3,000ユーロをうばった。(間接目的語として)
Yesterday they took three thousand euros from Helen.
昨日、彼らはエレニの3,000ユーロをうばった。(直接目的語の所有物として)
Yesterday they took Helen’s three thousand euros.
前置詞句で表す間接目的語
上記のような混同を避けるため、間接目的語を前置詞句で表すという方法があります。
- Έδωσε το βραχιόλι στη Μαίρη.
彼はメアリーにブレスレットをあげた。
He gave the bracelet to Mary.
- Η Ελένη μαγείρεψε τα σουτζουκάκια για το Νίκο.
エレニはニックのためにミートボールをつくった。
Helen cooked the meatballs for Nick.
- Χθες πήραν από την Ελένη τρεις χιλιάδες ευρώ.
昨日、彼らはエレニから3,000ユーロを奪った。
Yesterday they took three thousand euros from Helen.
目的語の重複表現
名詞句の「目的語」としての役割を明確にする別の方法として、動詞の直後にある目的語の内容を弱形(接語)代名詞で繰り返す「接語重複, clitic doubling」と呼ばれる表現があります。スペイン語やルーマニア語などにも見られるものです。
以下、和訳には重複表現をそのまま反映させます。
- Τον συνάντησα τον αδελφό της προχθές.
一昨日、私は彼に、彼女の弟に会った。
I met him her brother the day before yesterday.
- Πρέπει να του μιλήσεις του Νίκου εσύ.
あなたは彼と、ニコスと話す必要がある。
It is necessary that you talk to him Nick.
ただし、間接目的語が前置詞句で表現されるとき、弱形属格との重複は認められません。
- Του δώσανε στο Νίκο ένα συμβόλαιο.
彼らはニコスと契約を交わした。
They gave Nick a contract.
目的語の左方転位表現
さらに、本来の目的語を動詞の左側(通常は文頭)に移動させる「左方転位, clitic left dislocation」が併用されることがあります。
- Τα λουλούδια τα έφερε ο Τάκης.
タキスは花を買った。
Takis brought the flowers.
- Της Μαρίας δεν πρέπει να της λες μυστικά.
あなたはマリアに秘密を話してはいけない。
You must not tell secrets to Mary.
「接語重複」や「目的語の左方転位」はあまり馴染みのない表現ですが、ギリシャ語においては、間接目的語が弱形属格として現れる構文よりもはるかに一般的です。
前置詞句を必要とする他動詞
一部の動詞は、直接目的語に加え、位置などを示す前置詞句を必要とします。
- Έβαλαν το φαγητό στο τραπέζι.
彼らは食べ物をテーブルの上に置いた。
They put the food on the table.
- Έβγαλε τις πατάτες από το φούρνο.
彼女はじゃがいもをオーブンから取り出した。
She took the potatoes out of the oven.
これらの前置詞句は、動詞の示す動作によって影響を受けるものではないため、間接目的語とはみなされません。しかし、目的語のように動詞が要求するものであることから、一般的な副詞類(副詞句や前置詞句)とも異なります。