ギリシャ語の動詞は、動詞自体の語形や周囲の単語との組み合わせによって「相(アスペクト)」を示します。
概説
相(アスペクト)は、話者が動詞が表す動作や状態をどのように捉え、聞き手にどのように提示するかを示す文法上のカテゴリーです。
相(そう)は、言語学・文法学の用語で、述語が表す事象の完成度や時間軸における分布の様子などの差異化をもたらす文法形式である。語交替や語形変化を伴う。
相 (言語学) - Wikipedia
つまり、動作や状態が単一の完了した出来事であるか、反復的または習慣的か、進行中か、または現在の状態と過去に完了した出来事が関連しているか、あるいは全体像としての出来事か、などの違いを表現します。
ギリシャ語の動詞は、語形によって「非完結相」と「完結相」というふたつの相を区別します。
過去時制 | 非過去時制 | |
---|---|---|
非完結相 | διάβαζα | διαβάζω |
完結相 | διάβασα | διαβάσω |
非完結相は、あることがらを不完全な状態、つまり繰り返されるものとして、あるいは反復的なものとして表し、完結相は、あることがらを全体として、あるいは単一のものとして表します。
非完結相・現在時制(連続的・反復的な動作として)
Όταν διαβάζεις καλά, περνάς τις εξετάσεις.
よく勉強をすれば(していれば)、試験に合格する。
When you study well, you pass the exams.
完結相・現在時制(動作全体として)
Όταν διαβάσεις καλά, θα περάσεις τις εξετάσεις.
よく勉強をすれば、試験に合格する。
When you study well, you will pass the exams.
非完結相・未来(継続的な動作として)
Ο Γιάννης θα διαβάζει όλη μέρα αύριο.
ヤニスは明日、一日中勉強をする(し続ける)つもりだ。
John will be studying all day tomorrow.
完結相・未来(動作全体として)
Ο Γιάννης θα διαβάσει αύριο.
ヤニスは明日勉強をするつもりだ。
John will study tomorrow.
非完結相・過去時制(継続的な動作として)
Ο Γιάννης διάβαζε όλη μέρα χτες.
ヤニスは昨日、一日中勉強をした(し続けた)。
John was studying all day yesterday.
完結相・過去時制(単一の出来事として)
Ο Γιάννης διάβασε το πρωί.
ヤニスは昨日、朝に勉強をした。
John studied in the morning.
次のふたつの「接続法」を用いた例文においては、時を表すκάθε πρωί(毎朝)やχτες(昨日)が主節側(完結相)ではなく従属節側にかかっています。
主節:完結相・過去時制 - 従属節(接続法):非完結相
Ο Γιάννης προσπάθησε να διαβάζει κάθε πρωί.
ヤニスは、毎朝勉強をしようとした。
John tried to study every morning.
主節:完結相・過去時制 - 従属節(接続法):完結相
Ο Γιάννης προσπάθησε να διαβάσει χτες.
ヤニスは昨日、勉強をしようとした。
John tried to study yesterday.
相の区別は、命令法の文においても適用されます。
命令法:非完結相
Διάβαζε!
勉強しなさい(勉強をし続けなさい)。
Study! (Keep on studying!)
命令法:完結相
Διάβασε!
勉強しなさい。
Study (now)!
相は、それ単独で機能するものではなく、時制との組み合わせの結果が動詞の語形として、そして意味として表れます(以下のページで詳しくまとめています)。
本ページでは主に「非完結相」について、それから単独で機能しない特殊な語形「従属形」に焦点をあててまとめていきます。
非完結相
ギリシャ語の非完結相はしばしば、英語の「進行形, ...ing」に相当すると説明されます。
確かに「進行」は非完結相が示す主な意味の一つですが、特に現在時制において、非完結相が表す意味は多岐にわたります。
意味の判別は、文中の他の要素や動詞の種類、動詞が持つ意味などによって行われます。
繰り返し・反復
頻度を表す単語、たとえばoften, always…に相当する副詞や、「毎朝、毎週」といったevery…に相当する語が用いられるとき、動詞の非完結相は主に「繰り返し」や「反復」を表します。
Δεν γράφει στη μητέρα του πολύ συχνά.
彼はお母さんにあまりに手紙を書かない。
He does not write to his mother very frequently.
Τα πρώτα χρόνια μάς έγραφε κάθε βδομάδα.
はじめの数年間、彼女は毎週手紙を書いてくれた。
During the first years she used to write to us every week.
Θα σου γράφω κάθε μέρα.
毎日あなたに手紙を書く。
I will be writing to you every day.
Να μου γράφεις κάθε μέρα.
毎日私に手紙を書いてください。
Write to me every day.
習慣
時を表す語句とともに用いられるとき、動詞の非完結相は主に「日常的な習慣」を表します。
Η Μαρία τρέχει το πρωί.
マリアは毎朝走る。
Mary runs in the morning.
状態
動詞そのものの意味によって、動詞の非完結相は「動作」ではなく「状態」を示すものと解釈されます。
Ο Κώστας μένει στον Πειραιά.
コスタスはピレウスに住んでいる。
Kostas lives in Piraeus.
一般的な真理
一般的な真理や格言には、原則として非完結相が用いられます。
Έξι και εφτά κάνουν δεκατρία.
6足す7は13だ。
Six plus seven equals thirteen.
Τα δελφίνια κολυμπάνε γρήγορα.
イルカは早く泳ぐ。
Dolphins swim fast.
進行中の動作
時の一点を表す語句(今日、明日…)や、特定の時を表す節が用いられるとき、動詞の示す動作は「進行中」であると解釈されることが多いです。
Μην τον διακόπτεις τώρα γιατί γράφει.
彼は今書いているところなので、彼の邪魔をしないように。
Do not interrupt him now because he is writing.
Έγραφα ένα γράμμα στο Νίκο την ώρα που τηλεφώνησες.
あなたが電話をかけてきたとき、私はニコスに手紙を書いていた。
I was writing a letter to Nick when you telephoned.
Θα κοιμάμαι όταν γυρίσεις πίσω.
あなたが帰ってくるころ、私は眠っているだろう。
I will be sleeping when you come back.
ただし、頻度や時を表す語句がない場合もありますし、頻度 = 反復、時 = 進行、と必ずしも決まっているわけではありません。動詞が示す意味、あるいは非完結相であるかどうかは、文脈や種類によってさまざまに解釈される可能性があります。
次のような疑問文に対する答えになりそうな例文をいくつか挙げていきます。
Τι κάνει ο Νίκος;
ニコスは何をしていますか。
What does Nick do?
What is Nick doing?
たとえば「食べる」という動詞は「動作」を表します。なので(特定の文脈を除き)非完結相では「進行」か「日常の習慣」あたりを表します。
上の質問に対して「習慣」を答えるとは考えづらいので、次のこたえは「進行」を表していると解釈してほぼ間違いありません。
Τρώει.
彼は食事をしています。
He is eating.
一方「教える」という動詞は「動作」のほか「教える仕事をしている」の意味で用いられる可能性も十分に考えられます。
したがって、次の答えは「習慣(職業)」とも「進行中の動作」ともとれるので、これは前後の文脈で判断するほかありません。
Διδάσκει.
彼は教えています(→教える職業についています)。
He teaches.
Διδάσκει.
彼は(今)教えています。
He is teaching.
能力(の欠如)
「能力」や「能力の欠如」を示すことがあります。
Κόβει αυτό το ψαλίδι;
これらのハサミは切りますか?
→これらのハサミはよく切れますか?
Do these scissors cut?
→Are these scissors sharp?
Αυτό το μολύβι δεν γράφει
この鉛筆は書きません。
→この鉛筆では書くことができません。
This pencil does not write.
→This pencil not possible to write with it.
時間的な動詞とνα節
時間的な意味を持つ動詞の一部は、非完結相のνα節を伴うことがあります。
Και ξαφνικά άρχισε να κλαίει.
彼女は突然泣き始めました。
And suddenly she started crying.
Εμείς φύγαμε αλλά αυτός συνέχισε να τραγουδάει.
私たちは去ったけれど、彼は歌い続けました。
We left but he carried on singing.
知覚的な動詞とνα節
似た形として、ακούω(聞く)やβλέπω(見る)、αισθάνομαι(感じる)といった知覚的な意味を持つ動詞が非完結相のνα節を伴う例です。
主の動詞が肯定の場合、να節の動詞は常に非完結相となりますが、否定の場合は以下のように完結相をとることもあります。
Δεν τον ακούσαμε ποτέ να παραπονιέται.
彼が文句を言うのを聞いたことがない。
We never heard him complain.
Δεν τον ακούσαμε ποτέ να παραπονεθεί.
彼が文句を言うのを(一度も)聞いたことがない。
We never heard him complain (once).
その他の動詞とνα節
その他、μαθαίνω(学ぶ)やξέρω(知っている)といった動詞が非完結相のνα節を伴うこともあります。
Έμαθες επιτέλους να κολυμπάς;
ついに泳ぎ方を学びましたか。
Have you finally learned how to swim?
これらの動詞は、否定文であっても完結相のνα節を伴うことはありません。
- Έμαθα να κολυμπήσω.(これは誤り)
完結相
ギリシャ語の完結相は、ひとつの完全な出来事とみなされる動作や状態、または一連の動作を表します。
完結相が示す具体的な意味については以下でまとめています。
従属形
完結相と前述の非完結相は、時制と組み合わさって、ふたつの過去形を作ります。すなわち、単純な過去 (完結相×過去時制、例えば έγραψα)および未完了などと呼ばれる過去 (非完結相×過去時制, έγραφα)です。
しかし、現在時制の文では非完結相との組み合わせ(γράφω)しか使用されません。完結相×非過去時制の組み合わせ(γράψω)はそれ単体では機能せず、接続法を形成するために付属語と共に使用され、完結的な意味を表します。
このため、完結相×現在時制の語形は「従属形」と呼ばれます。
Θα μιλήσω στον Τάσο γι’ αυτό.
私はタソスとそのことについて話すつもりだ。
I will speak to Tasos about it.
Θέλει να μιλήσει στον Τάσο γι’ αυτό.
彼はタソスとそのことについて話したがっている。
He wants to speak to Tasos about it.
Ας του μιλήσει για το θέμα αυτό η ίδια.
この話題については彼女自身に彼へ話してもらいましょう。
Let her speak to him (on this occasion) about this topic herself.
未来表現の小辞θαのあとに現在形(非完結相×現在時制)が置かれれば、それは継続的な未来を、従属形(完結相×現在時制)が置かれれば一度きりの未来を表します。
Αύριο θα γράφω όλη μέρα.
明日は一日中書くつもりだ。
Tomorrow I will be writing all day.
To βράδι θέλει να βλέπει τηλεόραση.
夜、彼女は(いつも)テレビをみたがる。
In the evening she [always] wants to watch television.
Ας μιλάει όσο θέλει.
彼が望むだけ話をさせよう。
Let him speak as much as he wants.
なお、特定の接続詞の後では、従属形が小辞を伴わずにあらわれる場合もあります。
αν, εάν, έτσι και, όταν, άμα, μόλις, αφούの後
条件や時間を表す接続詞(αν, εάν, έτσι και, όταν, άμα, μόλις, αφού)の後で、従属形が単独であらわれることもあります。これらの文では任意でθαを先行させることもできます。
Αν (θα) τον δεις να μην του μιλήσεις.
もし彼を見かけても話しかけないように。
If you see him do not talk to him.
Θα του το δώσω όταν (θα) τον δω.
彼に会ったらそれを渡すつもりだ。
I will give it to him when I see him.
πριν, προτούの後
次に「…の前に」を表す接続詞πριν, προτούの後。これらの文では任意でναを使うこともできます。
Πρέπει να το κοιτάξεις καλά πριν το αγοράσεις or πριν να το αγοράσεις.
それを買う前によく見ることです。
You must look at it carefully before you buy it.
Προτού (να) φύγεις, έλα να μας χαιρετήσεις.
帰る前にお別れを言いに来て。
Come and say goodbye before you go.
πριν, προτούの後
「…かもしれない」の意味を持つ接続詞ίσωςの後。
Ίσως έρθει να μας δει.
彼は私たちに会いに来るかもしれない。
He may come to see us.
Ίσως δεν έρθει να μας δει.
彼は私たちに会いに来ないかもしれない。
He may not come to see us.
なおこの構文は「副詞としてのίσως + 接続法」に置き換えることができます。
Ίσως να έρθει να μας δει.
彼は私たちに会いに来るかもしれない。
He may come to see us.
Ίσως να μην έρθει να μας δει.
彼は私たちに会いに来ないかもしれない。
He may not come to see us.
όποιος, όσος, όποτε, όπου, όπωςの後
όποιος(誰でも)、όσος(どんなに)、όποτε(いつでも)、όπου(どこでも)、όπως(しかしながら)のような自由関係代名詞、限定詞、副詞の後。
Όποιος μιλήσει βρίσκει τον μπελά του.
誰が話しても迷惑になる。
Whoever speaks gets into trouble.
Όπου ρωτήσεις θα σου πουν το ίδιο πράγμα.
誰に聞いても同じことを言うだろう。
Whoever (wherever) you ask they will tell you the same thing.
「…かどうか」
次のような「…かどうか」を表す構文において。
Μιλήσεις δεν μιλήσεις δεν σε ακούει κανείς.
あなたが話しても話さなくても、誰もあなたの話を聞かない。
Whether you speak or not no one listens to you.
Είτε τη μαλώσεις είτε όχι μου είναι αδιάφορο.
あなたが彼女を叱ろうがどうしようが、わたしには関係ない。
Whether you scold her or not it is of no interest to me.
μήπως, μηの後
接続詞μήπως, μηの後(心配を表す動詞のうしろ、あるいは間接疑問文)で。
Φοβήθηκα μή/μήπως (δεν) έρθεις.
あなたが来る(来ない)かもしれないと心配していた。
I was afraid you might (not) come.
Αναρωτιέμαι μήπως τελικά δεν έρθει.
彼は結局来ないのかなあ。
I wonder if he will not come in the end.
μηνの後で否定の命令(禁止)
否定のμηνを伴い、否定的な命令や禁止を表すこともあります。
Μην φύγεις!
行くな!
Don’t go!
従属形が文中に単独で出現できない理由は、現在時制がある事象が継続していることを示す意味を持つためです。したがって、時間的な参照が弱まった文脈では、従属形の非整合性が解消されることとなります。
完了相
動詞は第三の相、すなわち完了相を示すことがあります。これは非完結相や完結相とは異なり、動詞έχωを助動詞的に用いることで表現されるものです。
完了相は、動作が完了しても、その影響が現在や過去、未来に及んでいることを示します。
完了相・現在時制
Έχω διαβάσει δέκα βιβλία μέχρι τώρα.
私はこれまでに10冊の本を読んだ。
I have read ten books up to now.
完了相・過去時制
Είχα διαβάσει δέκα βιβλία μέχρι χτες.
私は昨日までに10冊の本を読んだ。
I had read ten books by yesterday.
完了相・未来時制
Θα έχω διαβάσει δέκα βιβλία μέχρι αύριο.
明日までに10冊の本を読むつもりだ。
I will have read ten books by tomorrow.
主節:完結相・未来 - 従属節(接続法):完了相・現在時制
Ο Γιάννης θα προσπαθήσει να έχει διαβάσει δέκα βιβλία μέχρι την Τρίτη.
ヤニスは火曜日までに10冊の本を読むようにするつもりだ。
John will try to have read ten books by Tuesday.
非完結相現在時制 + 動名詞
Οδηγεί έχοντας πιει πολύ.
彼はかなり飲んで運転している。
He is driving having drunk a lot.