ギリシャ語における主要構成要素(主語、動詞、目的語など)の語順と、それに関連する構造についてまとめました。
ギリシャ語は語順が柔軟な言語であり、文脈や情報構造に応じて語順が変化します。本ページでは、文が完全に新しい情報を提示する場合の語順をはじめ、既知の情報を含む場合の構造として主題化、転位、焦点化といった特有の現象を取り上げます。それぞれの語順や構造がどのような場面で選択され、どのように意味やニュアンスが変わるかを解説します。
ギリシャ語の柔軟な語順と格変化
ギリシャ語では、文中の主要要素、つまり主語、動詞、目的語の位置は非常に柔軟であり、さまざまな配置が可能です。それによって文として成立する構造が作られます。
- Η μητέρα μου μάλωσε τον πατέρα μου
- Μάλωσε η μητέρα μου τον πατέρα μου
- Μάλωσε τον πατέρα μου η μητέρα μου
- Τον πατέρα μου μάλωσε η μητέρα μου
- Η μητέρα μου τον πατέρα μου μάλωσε
- Τον πατέρα μου η μητέρα μου μάλωσε
私の母が父に小言を言った
My mother told my father off
- μαλώνω | 叱る、小言を言う、口論する
英語では名詞や代名詞に格変化がないため、語順が役割を決定します。一方、ギリシャ語では格変化(μητέρα が主格、πατέρα が対格)により、各名詞の役割が明確に示されるため、語順を変更しても意味が変わりません。
ただし、語順の選択肢は文脈によって適切さが異なり、以下のような要因が影響します。
- 文全体が完全に新しい情報として提示されているか
- 既に提示された情報、新しい情報がそれぞれどれか
- どの要素が「主題」として提示されているか(文が何について述べているか)
- どの要素に重点が置かれ、「焦点」として提示されているか
多くの場合、文の主題は既知の情報の一部を成し、焦点は新しい情報の中でも特に重要な要素を指します。
完全に新しい情報として提示される文
はじめに、情報が完全に新しいものとして提示される文について説明します。
このような文は、会話や文章の冒頭に現れることが多く、たとえば前置きとして「τα ’μαθες τα νέα;」(ニュースを聞いたかい?) のような表現が明示的または暗示的に含まれることがあります。
Συνάντησε ο Γιάννης τη Μαρία(VSO)
Ο Γιάννης συνάντησε τη Μαρία(SVO)
ヨハンがマリアに会った
John met Mary
Τα παιδιά άκουγαν σιωπηλά τη δασκάλα
子供たちは先生の話を静かに聞いていた
The children were listening quietly to the teacher
予測不可能な情報が提示される場合にも、この語順が適切となります。
Αλλά ξαφνικά ανοίγει η πόρτα και μπαίνει μέσα ένας αστυφύλακας
しかし突然、ドアが開いて警官が入ってきた
But suddenly the door opens and in comes a policeman
このような文では、語順の選択肢として動詞-主語-目的語(VSO)または 主語-動詞-目的語(SVO)のいずれかが最も一般的です。
これらの文は通常、中立的なイントネーションで発音されます。つまり、文の中のどの要素にも特別な強調が置かれていません。
以下、主要な語順ごとにその特徴や使用される文脈について詳しく解説します。
動詞-主語-(目的語)の語順
動詞が主語と目的語の前に現れる文は、特に自動詞(目的語がない動詞)でよく見られますが、他動詞(目的語を伴う動詞)でも使われることがあります。
新しく予測不可能な情報を提示する
Ξαφνικά αρπάζει ο Γιάννης το παλτό του και φεύγει
突然ヨハンがコートを掴んで出て行った
Suddenly John grabs his coat and leaves
主語が不定(特定されていない)である
Κυκλοφορούν διάφορες φήμες τώρα τελευταία ότι…
最近、さまざまな噂が広まっている
Various rumours have been circulating recently that…
主語が不定の κανείς(誰か)や κάποιος(誰か)で、疑問文や否定文ではない
Ίσως να ’ρθει κανείς/κάποιος να με ζητήσει
誰かが私を訪ねてくるかもしれない
Someone may come asking for me
動詞が「現れる」「入る」「来る」「始まる」など
Δεν μου παρουσιάζονται συχνά τέτοιες ευκαιρίες
こんな機会は滅多に訪れない
Such opportunities do not present themselves to me often
Άρχισαν χθες τα γυρίσματα της νέας ταινίας του Τζέιμς Μποντ
昨日、ジェームズ・ボンドの新作映画の撮影が始まった
The filming of the new James Bond picture started yesterday
文の最初に他の要素(副詞など)が置かれている
Πίσω από τα παρασκήνια ακούστηκε το κλάμα της
舞台裏から彼女の泣き声が聞こえた
Behind the scenes one could hear her crying
みっつめの「主語が不定の κανείς(誰か)や κάποιος(誰か)で、疑問文や否定文ではない場合」の例を除き、主語が動詞の前に来る語順(SVO)でも表現できますが、その場合は文全体の情報提示の仕方がわずかに変化します。
Άρχισαν χθες τα γυρίσματα της νέας ταινίας του Τζέιμς Μποντ.
ジェームズ・ボンドの新作映画の撮影が昨日始まった。(VSO)
VSOの語順では、映画の撮影開始が「完全に新しい、予測できない情報」として提示されます。
Τα γυρίσματα της νέας ταινίας … άρχισαν χθες.
「ジェームズ・ボンドの新作映画の撮影が昨日始まった。(SVO)
SVOの場合、その映画に関する以前の話があり、撮影の開始が既に注目されていることを示唆します。
主語-動詞-目的語の語順
主語-動詞-目的語(SVO)の語順は、動詞-主語-目的語(VSO)と同様に、新しい情報や予測不可能な出来事を伝えるのに適しています。
しかし、SVO の語順は特に、主語が「話し手と聞き手の共通の知識を示す」場合に使われることが多いです。たとえば、既に両者に知られている人名や、(不特定であっても)明確で具体的な名詞句の場合、などが該当します。目的語については限定されている必要はありません。
主語が既知の人物(知り合い)
Ο Γιάννης αγόρασε καινούργιο αυτοκίνητο
ヨハンが新しい車を買った
John bought a new car
主語が既知の人物(有名な人)
Ο Υπουργός Παιδείας κάλεσε αντιπροσώπους των φοιτητών σε μια συνάντηση
教育大臣が学生代表を会議に招いた
The Minister of Education invited student representatives to a meeting
主語が不特定だが具体的な名詞句
Κάποιοι υπουργοί αποκρύπτουν την αλήθεια για την οικονομική κατάσταση
何人かの大臣が経済状況について真実を隠している
Certain ministers are hiding the truth about the economic situation
動詞-目的語-主語の語順
動詞-目的語-主語(VOS)の語順は、新しい情報を伝える際にも使用されますが、特に動詞と目的語が既知の情報であり、主語が新しい情報として提示される場合に適しています。この語順が使用される可能性が高い状況は以下の通りです。
目的語が動詞の意味からほぼ予測可能な場合
Φόρεσε το σακάκι του ο Τάσος και έφυγε
タソスがジャケットを着て出て行った
Tasos put on his jacket and left
動詞と目的語が慣用表現を形成する場合
Έτσι κάνει την πλάκα του ο Δημήτρης
こんなふうにディミトリスは自分を楽しませている
This is how Dimitris amuses himself
主語が話の中に初めて登場する、または再び登場する場合
Ύστερα μας είπε τα δικά του κι ο Γιάννης
その後、ヨハンも自分の話をし始めた
Later it was John who told us his stories
Εκεί που τρώγαμε ανοίγει την πόρτα ένας παπάς και…
私たちが食事をしていると、司祭がドアを開けて入ってきた…
As we were eating, a priest opens the door and…
Τώρα μαθαίνει πιάνο η Ελένη, του χρόνου θα αρχίσει και η Μαίρη
今エレニがピアノを習っていて、来年はメアリーも始めるだろう
Now it is Helen who is learning the piano, next year Mary will start too
既知の情報を含む文
これまでに紹介した文はすべて中立的なイントネーションで、新しい情報を提示するのに適した形式でした。こうした文では、主題(トピック)とそれに関するコメントが明確に分けられていないことが一般的です。
一方で、完全に新しい情報を提示する文とは異なり、既知の情報(主題)と新しい情報(コメント)が混在する文では、主題とコメントが明確に区別される場合があります。この区別は、イントネーションや語順の変更、代名詞の使用などによって示されます。
- 主題: 通常、既知の情報を指し、会話や文脈の中で話題として取り上げられる要素です。
- コメント: 主題に関して新しい情報を提供する部分。
以下、特定の情報に注目する構文についてまとめていきます。
主題化
「主題化, topicalization」とは、語順の変更や弱形人称代名詞の使用、イントネーションの工夫などにより、文の主題(既知の情報)を際立たせる手法です。
主題化された文では、主題が文の最初に提示され、それに続く部分がコメントとして、新しい情報を提供します。
主語が主題の場合
文中で最も自然に主題として機能するのは主語です。特に定冠詞を伴う具体的な名詞(例:固有名詞)がある場合、主語が主題となることが多いです。
主題とコメントの区別を明確にするため、SVO(主語-動詞-目的語) の語順がよく使われます。また、主題には主要な強調が置かれず、主題の直後にイントネーションが下がる場合があります。
Η μητέρα μου μάλωσε τον πατέρα μου
母が父に小言を言った
My mother told my father off
この文では、「η μητέρα μου」(私の母)が主題であり、「μάλωσε τον πατέρα μου」(父を叱った)がコメントです。例えば「母が何をしたのか?」という質問への答えとして適しています。
目的語が主題の場合
通常、目的語は文末に置かれコメントの一部となりますが、文頭に置いて主題として提示することも可能です。この場合、対応する弱形代名詞(τον, την, το…)を動詞に加えることで、目的語が既知の情報であることを示します。
Το Γιάννη τον διόρισαν στην τράπεζα
ヤニスが銀行に採用された
John was appointed to the bank
ここでは、「ヤニス, το Γιάννη」が主題となり、弱形代名詞「τον」が動詞に加えられています。この構造では、動詞や他の要素にコメントとしての焦点が置かれます。
人称代名詞が主題の場合
人称代名詞を主題として示す場合、強形代名詞(εγώ, εσένα…)を使用し、動詞には対応する弱形代名詞を付加します。
Εμένα, δεν με θέλει καθόλου
私について言えば、彼女は私を全く好きではない
As for me, she doesn’t like me at all
「私, εμένα」が主題となり、弱形代名詞「με」が動詞に置かれています。
以下はふつうの文。
Δεν με θέλει καθόλου.
彼女は私を全く好きではない
She doesn’t like me at all.
間接目的語が主題の場合
間接目的語も主題として文頭に置くことができ、弱形代名詞を動詞に加えることで、既知の情報であることを示します。
Του Νίκου του χάρισε η Μαρία ένα ωραίο πορτοφόλι
マリアがニコスに素敵な財布を贈った
Maria gave Nikos a nice wallet
「ニコス, του Νίκου」が主題となり、動詞に弱い代名詞「του」が加えられています。
Η Μαρία χάρισε ένα ωραίο πορτοφόλι στον Νίκο.
マリアがニコスに素敵な財布を贈った
Maria gave a nice wallet to Nikos.
複数の主題を持つ文
文には複数の主題を持つことも可能です。主語と目的語、または主語と間接目的語の組み合わせが一般的です。
Η Μαρία τον Νίκο τον αγαπάει πολύ
マリアはニコスをとても愛している
Maria loves Nikos very much
この文では「マリア, η Μαρία」と「ニコス, τον Νίκο」の両方が主題となっています。
その他の要素を主題とする場合
副詞や前置詞句も文頭に置かれることで主題として機能します。この場合、文全体の背景や文脈を提示する役割を果たします。
Σήμερα θα πάμε στη δουλειά αλλά αύριο έχουμε αργία
今日は仕事に行くが、明日は休みだ
Today we’ll go to work, but tomorrow we have a holiday
ここでは「今日は, Σήμερα」が主題となり、その後に続く文で新しい情報が提示されています。
転位構文(Dislocation)
「転位構文, dislocation」は、主題化がより強調されたものです。
この構文では、文の要素が分離され、文頭または文末に置かれます。この分離された要素は、通常カンマで区切られるか、イントネーションの変化(文頭なら強調、文末なら下降)によって示されます。
分離された要素は文法的には独立しており、文中に対応する弱形代名詞(またはその他の代名詞)が挿入されることが一般的です。
このため、分離された要素は主に「~に関して言えば」や「~について」というニュアンスを含む場合が多いです。
左方転位構文
分離された構成要素が冒頭に置かれ、文の残り部分とカンマやイントネーションの違いで分ける構文です。
Το Γιάννη, δεν τον είδαμε ποτέ να χαμογελάει
ジョンについて言えば、彼が笑っているのを一度も見たことがない
As far as John is concerned, we have never seen him smile
Στην Ελλάδα, εγώ και τα παιδιά θα πηγαίνουμε κάθε χρόνο
ギリシャについて言えば、私と子供たちは毎年行く予定だ
As far as Greece is concerned, the children and I will be going every year
Α! Η Αθήνα, δεν θα ξεχάσω ποτέ τα ταβερνάκια της
ああ、アテネについて言えば、そこの小さな居酒屋を決して忘れないだろう
Ah, as for Athens, I will never forget its little tavernas
Εκείνος ο πατέρας του Γιάννη, δεν τον βλέπεις ποτέ θυμωμένο
ジョンのあの父親について言えば、彼が怒っているのを一度も見たことがない
As for John’s father, you never see him angry
右方転位構文
分離された構成要素を文の末尾に分離し、補足的な情報を提示する構文。
この場合にも、分離された要素は弱いストレスとイントネーションの下がり具合で表現され、文の主要な強調は他の構成要素に置かれます。
Δεν τον βλέπεις ποτέ να χαμογελάει, τον Γιάννη
彼が笑っているのを一度も見たことがない、ジョンのことだ
You never see him smile, John
Θα του το πάρουνε, είμαι σίγουρη, το μαγαζί
彼から店を取り上げるだろう、私は確信している
They will take it away from him, I am sure, the shop
Ο καημένος φαίνεται πολύ άρρωστος, ο Γιάννης
そのかわいそうな男はとても具合が悪く見える、ジョンのことだ
The poor man seems very ill, John
焦点化
「主題化」や「転位構文」の項で述べたように、文は通常、主題(トピック)とコメントに分かれます。
主題は既知の背景情報に関連し、文頭に置かれることが多い一方で、コメントは新しい情報を表現します。
この新しい情報の中でも、文全体で最も重要な部分が「焦点」と呼ばれます。
「焦点化, Focusing」とは、文中で最も顕著な新情報に特別な注意を引くためのプロセスです。
焦点は通常、文末に置かれますが、文末が弱形代名詞や接続詞などの場合、別の場所に置かれることもあります。
- イントネーションの変化
中立的な文では、文末に自然な強調が置かれ、それが焦点と解釈されます。焦点化では、特定の要素に明確なストレスを与えることで、新情報の重要性を際立たせます。 - 焦点化されない要素
弱い人称代名詞、接続詞、または分離された要素は通常焦点にはなりません。ただし、否定語(δεν や μην)は例外的に焦点として扱われる場合があります。 - 驚きや対比の強調
文中で特定の要素を強調し、驚きや対比を示すことができます。
中立的な文
Ο Μιχάλης θέλει να μιλήσει στον πατέρα του αύριο
ミハリスは明日、父親と話したいと思っている
Michael wants to speak to his father tomorrow
焦点化された文
Ο Μιχάλης θέλει να μιλήσει στον πατέρα του αύριο
ミハリスが話したいと思っている [他の誰でもなく]
Michael [not somebody else] wants to speak…
Ο Μιχάλης θέλει να…
ミハリスは確かに…したいと思っている
Michael sure wants to…
Ο Μιχάλης θέλει να μιλήσει…
ミハリスは話したいと思っている(メッセージを送るのではなく)
Michael wants to speak [not to send a message]…
Ο Μιχάλης θέλει να μιλήσει στον πατέρα του…
ミハリスは父親に話したいと思っている(母親ではなく)
Michael wants to speak to his father [not to his mother]…
Ο Μιχάλης θέλει να μιλήσει στον πατέρα του αύριο
ミハリスは明日話したいと思っている(今日ではなく)
Michael wants to speak to his father tomorrow [not today]