現代ギリシャ語において、古代ギリシャ語に存在した名詞の格「与格」はほぼ消失したものの、いくつかの慣用句や定型表現にその名残が見られます。
目次
与格の例
以下に、名詞の曲用パターンごとに与格の例を示します。
-ος(男性名詞)
- δόξα τω Θεώ(神に感謝)
- λόγω(理由で)+属格
- εν λόγω(問題の)
- παρά τω + 役職名与格(特定の公職名)
- ο υφυπουργός παρά τω πρωθυπουργώ(首相府の副大臣)
-α(女性名詞)
- απουσία(欠席中、欠席している場合)
- εν συνεχεία(その後)
- πάση θυσία(あらゆる犠牲を払って、絶対に)
-η, -ες(女性名詞)
- εν ανάγκη(必要であれば)
-η, -εις(女性名詞)
- βάσει(基づいて)+属格
- ελλείψει (+属格) - 「…が不在で、…の不足により」
- εν γνώσει(故意に)
- εν δράσει(行動中、実行中)
- δυνάμει(法的根拠に基づいて)
- επι λέξει(逐語的に、言葉どおりに)
- εν πάση περιπτώσει(いずれにせよ、どんな場合でも)
- φύσει(本質的に、生まれつき)
- εντάξει(問題なし)
- ※日常的によく用いられる表現
-ο(中性名詞)
- έργω(実際には)
- μέσω(通じて)+属格
-ος(中性名詞)
- εν γένει(一般に)
- εν τέλει(最終的に、完全に)
- 通常は一語で書かれ、εντέλει となる
-μα(中性名詞)
- πράγματι(実際に)
補足:古代ギリシャ語における与格
与格は一般に動詞の間接目的を標示する。日本語では主に「に」で表される。
与格 - Wikipedia
古代ギリシャ語における名詞の与格は、上の引用の通り動詞の間接目的語の役割、あるいは時間や空間などを表すために用いられていました。たとえば、次のような役割です。
- 利益受益の表現: 誰かが恩恵を受ける、または損害を被る対象を示す(〜のために、〜に向けて)
- 間接目的語の表現: 動作の受け手を表す(「彼に」贈り物を渡す)
- 場所や時間の表現: 特定の場所や時間を示す(家で、日中に)
- 手段や方法の表現: 何かを使って行う手段や方法を示す(手で、助けによって)
補足:現代の他の言語における与格の存在
現代のインド・ヨーロッパ語族の言語では与格形が消失しているものも多く、その役割は前置詞(英語の「to」「for」など)で代替されています。
ですが一方で、いくつかの現代言語には与格が依然として存在します。例えばドイツ語(3格と呼ばれる)やロシア語、アイスランド後や一部のスラブ語派の言語などなど…